ヒドロホルミル化またはオキソ合成/プロセス

ヒドロホルミル化、またはオキソ合成は、アルケン化合物からアルデヒドを生成するために使用します。 この反応では有機ロジウムまたは有機コバルト化合物を触媒として使用し、C=C結合に水素原子を付加して、分子にC-C結合とホルミル基を形成し、アルデヒドを生成します。 ヒドロホルミル化によって形成されたアルデヒド化合物は、アルコール、アミン、カルボン酸など他の多くの化合物を合成するための原料となります。 このため、ヒドロホルミル化は、バルクケミカルを生成するための最も重要な有機合成の1つです。 さらに、特定の金属-配位子結合を持つ触媒を使用したヒドロホルミル化は、より複雑なファインケミカルや医薬品の不斉合成に使用されます。 ヒドロホルミル化は主要な均一系触媒アプリケーションと見なされていますが、不均一系ヒドロホルミル化システムもいくつか開発されています。その多くでは、種々の構造を持つロジウム錯体を利用しています。

ヒドロホルミル化によって毎年何百万トンもの工業化学物質が製造されています。 石油化学業界では大量の1-アルケンが製造されるため、ヒドロホルミル化は工業化学プロセスでますます幅広く使用されるようになっています。 ほとんどの長鎖、分岐鎖、環状オレフィンはヒドロホルミル化が可能ですが、最も一般的な出発化学物質はエチレンとプロピレンであり、ここからプロピオンアルデヒド、n-ブチルアルデヒド、イソブチルアルデヒドが生成されます。 エチレンから生成されたプロピオンアルデヒドを水素化し、フタル酸ジエチルなどの可塑剤や、界面活性剤や洗剤として使用される長鎖脂肪族アルコールを形成することができます。 アルデヒドのエナンチオマーを形成する不斉ヒドロホルミル化用の触媒が注目されており、研究開発が進められています。これらの物質は、その後、異なる官能基を含む一連のキラル特異的な分子に変換されます。 

ヒドロホルミル化の機構はすべて十分に理解されており、反応条件によって直鎖または分岐鎖アルデヒドを生成することが可能です。ほとんどの工業プロセスでは直鎖アルデヒドが使用されており、直鎖アルデヒドの形成を促進する化学反応の開発が注目されています。 直鎖または分岐鎖アルデヒド形成の主なステップは、水素化物やアルケン配位子の挿入です。 水素化物は、内部二重結合炭素か末端炭素に付加することができます。 前者の場合は直鎖アルデヒドが、後者の場合は分岐鎖アルデヒドが形成されます。 直鎖アルデヒドを形成する一つに金属配位子を使用する方法があります。たとえば、トリアルキルホスフィン配位子（PR3）をHCo(CO)4触媒に付加すると、直鎖アルデヒドvs分岐アルデヒドの形成比が大きく上昇します。

触媒に関しては、より低い圧力と温度でヒドロホルミル化を発生させ、触媒寿命を延ばすことができる、新しいコバルト配位子やロジウム配位子に特異的な錯体/プロセスが開発されました。 さらに、不斉ヒドロホルミル化の位置選択性と立体選択性を制御する触媒とプロセスの開発が進められています。一般に、反応率に関してはロジウム触媒の方が有効で、コバルト触媒よりも低温・低圧で機能します。 しかし、高価なロジウム錯体に近い有効性を持つ新しい有機コバルト触媒も開発されています。 

不斉ヒドロホルミル化は非常に注目されており、容易なアルケンと合成ガスを使用して鏡像異性的に強化されたアルデヒドを合成し、この物質から、多様な機能を持つエナンチオ特異的な化合物をさらに合成することができます。 不斉ヒドロホルミル化には、目的物を得るために低温での反応温度によって生じる反応速度の低下など、関連する課題があります。 これらの問題を最小限に抑えるために、不斉ヒドロホルミル化には、たとえば水添反応で使用されるものとは異なる配位子を持つ有機金属触媒が必要です。 不斉ヒドロホルミル化の配位子の種類には、ホスフィン/ホスファイト混合物、ジホスファイト、ホスホランなどがあります。

使用する触媒混合物のタイプに加えて、不斉ヒドロホルミル化は反応温度とCO圧力の影響を受けます。このいずれか、または両方によって反応速度論が変化する可能性があります。 たとえば、スチレンの不斉ヒドロホルミル化では、高いCO圧力を使用すると分岐異性体の形成が促進されますが、CO圧力が低いと直鎖異性体が生成されます。 In-situ FTIRとラマン分光測定は、新しい配位子を持つ金属触媒を使用した不斉ヒドロホルミル化の反応速度を調べるだけではなく、生成物の性能に対する反応変数の影響を確認するための有効な技術です。 反応速度とエナンチオ特異性のトレードオフを完全に理解することにより、特定の触媒錯体の最適な反応変数を決定することができます。 

ヒドロホルミル化触媒と、反応条件が反応性能に与える影響の調査

均一系触媒については、in-situ分子分光法により、反応系に存在する活性化学種の構造に関する情報が得られますが、中間体の場合もあります。 ロジウムやコバルトのヒドロホルミル化触媒のC=Oシフトを測定することにより、機構と触媒反応経路について多くの情報を得ることができます。 in-situ分光法は、温度や圧力などの反応変数がヒドロホルミル化活動や選択性に与える影響を直接測定します。 ReactIR技術に関連するダイヤモンド製全反射測定法（ATR）センサは、ヒドロホルミル化の反応条件を容易に決定できます。ラマン分光計は、圧力リアクターの石英窓を通じて非接触で触媒反応を測定できます。 いずれの場合も、反応条件に影響を与えることなくリアルタイムで情報を取得できます。 ラマン分光測定は、不均一系ヒドロホルミル化反応の調査に適用できるとは検証されています。

EasyMaxのリアクター には、50～100mLサイズの高圧リアクターが使用できます。50mLの容器は最大200barまで、100mLの容器は60または100barまでの圧力に対応します。 これらの高圧容器によって、水添反応やヒドロホルミル化などの触媒プロセスの測定が可能になります。 EasyMaxは、反応条件を高精度で制御し、有機合成、パラメータのスクリーニング、特性評価に適しています。 ReactIR/ReactRaman in-situ分子分光技術はいずれも、EasyMax高圧リアクターに取り付けが可能となっています。iCソフトウェアは、リアクターの温度、圧力、撹拌、試薬添加速度を自動的に管理し、分子分光測定を制御します。

• Si-min Yu, William Snavely, Raghunath V. Chaudhari, Bala Subramanian, “Butadiene hydroformylation to adipaldehyde with Rh-based catalysts: Insights into ligand effects”, Molec. Catalysis, 2020, 484, 110721
• Drew M. Hood, Ryan A. Johnson, Alex E. Carpenter, Jarod M. Younker, David J. Vinyard, George G. Stanley, “Highly active cationic cobalt(II) hydroformylation catalysts”, Science, 2020, 367(6477), 542-548
• J. M. Dreimann, E. Kohls, H. F. W. Warmeling, M. Stein, L. F. Guo, M. Garland, T. N. Dinh, A. J. Vorholt, “In-situ infrared spectroscopy as a tool for monitoring molecular catalyst for hydroformylation in continuous processes”, ACS Catal., 2019, 9(5), 4308–4319
• Andreas Jörke, Andreas Seidel-Morgenstern, Christof Hamel, “Rhodium-BiPhePhos catalyzed hydroformylation studied by operando FTIR spectroscopy: Catalyst activation and rate determining step”, J. Mol. Catalysis A: Chem., 2017, 426 Part A, 10-14
• Sebastian Schmidt, Eszter Baráth, Christoph Larcher, Tobias Rosendahl, Peter Hofmann, “Rhodium-Catalyzed Hydroformylation of 1,3-Butadiene to Adipic Aldehyde: Revealing Selectivity and Rate-Determining Steps”, Organometallics 2015, 34, 5, 841–847
• László T. Mika, László Orha, Eddie van Driessche, Ron Garton, Katalin Zih-Perényi, István T. Horváth, “Water-Soluble-Phosphines-Assisted Cobalt Separation in Cobalt-Catalyzed Hydroformylation”, Organometallics 2013, 32, 19, 5326–5332
• Daniela Fuchs, Géraldine Rousseau,  Lisa Diab, Urs Gellrich, Bernhard Breit, “Tandem Rhodium‐Catalyzed Hydroformylation–Hydrogenation of Alkenes by Employing a Cooperative Ligand System“, Angew. Chem. 2012, 51(9), 2178-2182
• Jaroslav Keybl and Klavs F. Jensen “Microreactor System for High-Pressure Continuous Flow Homogeneous Catalysis Measurements”, Ind. Eng. Chem. Res. 2011, 50, 11013–11022
• Benjamin Hentschel, Gregor Kiedorf, Martin Gerlach, Christof Hamel, Andreas Seidel-Morgenstern, Hannsjörg Freund, Kai Sundmacher, “Model-Based Identification and Experimental Validation of the Optimal Reaction Route for the Hydroformylation of 1‑Dodecene”,  Ind. Eng. Chem. Res. 2015, 54, 1755–1765

ReactIRによる活性触媒化学種の確認と反応速度/機構情報を提供する主要な中間体の追跡

Andreas Jörke, Andreas Seidel-Morgenstern, Christof Hamel, “Rhodium-BiPhePhos catalyzed hydroformylation studied by operando FTIR spectroscopy: Catalyst activation and rate determining step”, J. Mol. Catalysis A: Chem., 2017, 426 Part A, 10-14n.

ジホスファイト分子、BiPhePhosを配位子として持つロジウム触媒による1-デセンのヒドロホルミル化についてReactIR測定を行いました。 in-situ IR測定により、前駆体Rh化合物、Rh(acac)(CO)₂から活性化されたHRh(BiPhePhos)(CO)₂触媒への変換に関する興味深い結果が得られました。 後者の錯体は、ヒドロホルミル化が進むにつれて触媒中間体として特定されました。また、酸化による触媒の分解は観察されませんでした。これは、P=O結合がIRスペクトルに存在しなかったことからわかります。 触媒回転数が示すように、Rh-BiPhePhos触媒によるヒドロホルミル化と1-デセン濃度の関係が1次式であること、また律速段階がオレフィン配位であることを著者らは報告しています。

前駆体Rh錯体は2085cm^-1と2014cm^-1でRh-COバンドを示しましたが、BiPhePhosの導入によってこれらのバンドは消失し、COがジホスファイト配位子に置き換わったことを示します。 H₂の導入後、2077cm-1と2017cm-1でCO振動が観察されていますが、これは、Rh-ヒドリドジカルボニル錯体の文献値と一致しています。 オレフィンを注入すると、1643cm^-1にC=Cバンドが観察されます。ヒドロホルミル化が進み、さらに1729cm^-1に強いウンデカナールC=Oバンドが形成されると、このバンドは消失します。 これらのバンドの比を規格化することで、1-デセンの反応率が測定され、TONが計算されます。 

ReactIRによる反応経路、触媒の選択性、活性に関する情報の提供

Si-min Yu, William Snavely, Raghunath V. Chaudhari, Bala Subramanian, “Butadiene hydroformylation to adipaldehyde with Rh-based catalysts: Insights into ligand effects”, Molec. Catalysis, 2020, 484, 110721

著者らは、有機ロジウム触媒によるブタジエンからアジポアルデヒドへのヒドロホルミル化は、アジピン酸やヘキサメチレンジアミンなどのC₆化合物を生成するためのオプションであると報告しています。 このため、反応経路を知ることでアジポアルデヒドの収率を向上し、反応条件が活性と選択性に与える影響を確認しようとしました。 in-situ IR測定で得られたデータを使用して、8つの異なる配位子を持つRh錯体を系統的に調べました。 80℃、14barの合成ガス（モル比CO/H₂ = 1）圧力でのブタジエンのヒドロホルミル化の場合、配位子/Rh比、ロジウム濃度、ブタジエン濃度、合成ガス圧力はアジポアルデヒドの選択性に影響を与えないものと報告しています。 ただし、使用する配位子のタイプと配位子の配位挟角に選択性が大きく依存していることを確認しました。 ReactIRのデータに基づいて、安定したロジウムη³-クロチル錯体とさまざまなRh錯体の形成により、選択性が低下する可能性があることを示唆しています。

ReactIRによる触媒化学種、活性、安定性に関する情報の提供

Drew M. Hood, Ryan A. Johnson, Alex E. Carpenter, Jarod M. Younker, David J. Vinyard, George G. Stanley, “Highly active cationic cobalt(II) hydroformylation catalysts”, Science, 2020, 367(6477), 542-548

著者らは、高価なロジウム系触媒とほぼ同程度の活性を持つアルデヒドを形成するアルケンのヒドロホルミル化のためのコバルト触媒の開発について報告しています。 これらの新しいカチオン性コバルト（II）ビスホスフィンヒドリド-カルボニル触媒は、元の中性コバルト触媒、HCo(CO)₄やHCo(CO)₃（PR₃）の数百倍の活性を持ち、低い圧力のような穏やかな条件下で機能します。 著者らは、単純な直鎖アルケンでは、これらの触媒が直鎖vs分岐鎖（L:B）の位置選択性は低いが、分岐アルキル基を持つ内部アルケンでは、L:B選択性が高いことを報告しています。 さらに、この新しい触媒が劣化に強く、使用寿命が長いことを発見しました。

実際の反応条件下でのin-situ IR測定によって、いくつかの活性カチオン触媒化学種の存在を明らかにし、時間の関数として触媒の安定性に関する情報を得ることができました。ReactIR測定からは、33〜96時間のスペクトルのカルボニル領域にほぼ変化がないことがわかります。 得られた触媒溶液の試験によって、新しい触媒前駆体サンプルと同様にヘキセンのヒドロホルミル化に有効であることがわかりました。